いつも腹ペコな異彩

少女はまだ未成年だった。数か月後に外国の大学に入学することが決まっていた。親に食事をさせてもらっていない、と言ってチェーンのファミリーレストランのメニューを次々に平らげていった。

無表情だと怒っているようにすら見えるような切れ長で鋭い目と、けらけらと子供のように笑う表情がとてもアンバランスなように見えた。明るい表情と暗い表情を交互に見ていると、明るい表情が若干不自然で無理をしているようにも見える。先入観がそうさせるのかもしれない。

幼いころから様々な国で暮らしているためか3か国語を操れるそうだ。茶道や華道、絵画など芸術に通じていた。言葉による表現力が著しく低いのか擬音語や擬態語ばかりなので、会話がスムーズに通じない。少女自身もそのことに気が付いていて時折イライラしているように見える。

年齢にはふさわしくない恋愛遍歴を聞いていると愛情に飢えていることは疑う余地はない。大事にされると人を好きになってしまうのかもしれない。愛情を試すようなわがままや無茶な要求をやんわりと退ける。深入りしないように気を付けながら会話を進める。

感情が豊かであることは魅力的だ。その反面、傷つきやすく壊れそうでとても危ういもののように感じる。世の中はこういうものだ、と気が付き始めた時、与えられた役割を演じることで、摩擦は軽減され感情も鈍くなっていく。それが大人というならば少女は年齢相応の子どもなのだろう。

クリムトの「接吻」を自分なりに様々な色紙を張り付けてリメークした作品を見せてもらった。かなり独創的で美しい仕上がりを見せていた。自分の家に飾りたいくらいだった。素敵な才能を持っているのは確かなように見えた。

僕の目に映る程度の人たちを見ても、環境に恵まれずに正当な能力を発揮できない人がたくさんいるように思える。特に年齢的に若く、たくさんの可能性を秘めた人たちについてはできる限りのことをしたいといつも思う。

少女を自宅近くまで送っていった際にこう言われた。

「あなたとなら一晩過ごしてもいいよ」

大変魅力的なお誘いではあるけれど、と前置きをして丁重にお断りした。あとで後悔するかもしれないけれど、僕には手に負えそうにない。彼女はぼくの言葉をとてもつまらないというような顔で聞いていた。その気になったらいつでも声をかけて欲しいと言い残し、振り返りもせずに去っていった。

もう会うこともないまま少女はあと数カ月で外国の大学に入学することになるだろう。

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