その人と初めて食事をしたのはお刺身の美味い居酒屋だった。彼女のリクエストはお刺身が食べたい、ということで最寄りのターミナル駅にある居酒屋の予約をした。約束の時間ぴったりに彼女と駅で待ち合せて、居酒屋で刺身をつまみながらお酒を飲んだ。
職業は聞いていなかったが会った瞬間にすぐに分かった。高めの身長、黒髪、シンプルな爪、控えめな時計、黒のストッキングに小さめのキャリーバッグ。自己紹介を終えた後、僕は彼女の仕事を当てると宣言して、会社名までぴたりと正解することができた。だが彼女は特に驚いた様子はない。「すぐに職業を当てられるんですよね」と彼女は言った。
東北地方出身で国立大学を出て、東京に出てきたらしい。恋人はメキシコに出張中だという。悲壮感はなく幸せそうにみせているが、無理をしているのは職業を当てるより簡単に見抜くことができる。僕は何も気が付かないふりをしてお酒を飲んでいた。
酒が入ると彼女は饒舌になった。勉強はしなくても良い成績を収めていたようだ。それだけでなく芸術面でもスポーツ面でも学内はおろか、県内で表彰されるくらいの活躍をしていた。普通に聞けば自慢、ととられる内容にも思えるが、それを凌駕するくらい話が面白かった。サービス精神に富んだ人だということが感じられた。
話が盛り上がったので2件目に誘った。彼女は生牡蠣が食べたというので生牡蠣を出すイタリアンバルに立ち寄った。2件目に誘われなかったらつまらないと思われていると解釈するところだった、と彼女は言った。裏表なく屈託なく、子供みたいに素直で純粋な人だな、と思った。初対面の僕との食事を純粋に楽しんでいるように見えた。生牡蠣をつるりと4個ほど食べて満足そうに笑っていた。
結構お酒を飲んだので彼女の最寄り駅まで送っていった。電車で約10分程度の距離。特に酔っていると感じるほどではないが、まったく警戒心というものが感じられない。逆に僕のことを人間不信だと心配してくるほどだ。指摘は間違っていないと思う。「人間不信を矯正するリハビリみたいな形でまた飲みに行こう」と言った後「私のことを好きになっても彼のことを大好きだから無理だからね」と言って帰っていった。
気が付くと僕の家までの終電はなくなっていた。飲んでいた駅まで戻りタクシーを拾うとお礼のLINEが入ってきた。絵文字満載だった。大きな子供みたいな人だな、と思った。

