銀座のクラブで長くNO.1として勤めていた女性と話す機会があった。夜の仕事の人と話す機会は多いけれど、NO.1という肩書を自称ですら語る人は僕の周りには少ない。だから彼女の仕事論には最初から興味を持っていた。
確かに普通の人とは違うオーラをまとった人だった。彼女は白いシャツにグレーのタイトスカート、髪色も黒くまとめられていた。長いマツゲと若干厚いファンデーションが前職の名残りを感じさせた。誰か見ても美人と声をそろえて言うだろう。
創作イタリアンの店で肉を中心としたディナーをいただく。乾杯の白ワインの後はソフトドリンクを飲んでいた。クスクスのサラダと、フルーツトマトのカプレーゼをおいしそうに食べた。その間、僕らはビジネスの話をしながら、ほんの少しお互いの個人的な話をした。大人びて見える表情やしぐさも、気心が知れてくると年齢相応に見えてくるようだった。
彼女を車で自宅まで送る際中、彼女は饒舌に前職の経歴について語ってくれた。接客のマナー、立ち振る舞い、印象に残る歩き方、表情やお客様に対しての心構えなど。僕が何となく想像していた「金持ち」を優先する考え方ではなく、自分に使ってくれる金額に対する対価に心を配る考え方の持ち主だった。
一番衝撃的だったのは、最初に自分に対してネガティブな反応、例えば初対面で「ブス」だの「チェンジ」などを連呼するようなお客様を最終的に太いお客様にすることができる、という話だった。男の僕でも言われたら傷つくような言葉をさらりと交わし言葉の本質を見抜いて親しくなっていく技術。笑顔で話してくれていたが最初から平気な顔でうまく対応できていたとは思わない。つらい時期を乗り越え、NO.1としてやってきたプライドみたいなものが横顔から感じられるような気がした。
彼女の家の前に停車し、ひととおり彼女の話を聞き終わった後、じゃあまた、と言って車を降りていった。一度も振り返らずさっそうと歩く後姿を見ていると、ありふれたベッドタウンがまるで銀座のクラブ街のようにも感じられた。

