ドアをノックする男とノックされる男

誰かが家のドアをノックする。長い廊下を歩き、僕は玄関のドアを開ける。そこには見知らぬ壮年の男が立っている。見たことのない男だ。どなたですか?と僕は聞く。男は不機嫌そうにこう言う。

「君こそ誰だ?私の家のドアを散々叩いて私を呼び出したくせに」

何の事だかさっぱりわからない。心当たりはない。誰かのドアをたたいたこともない。とその男に弁解する。あなたの方こそ。と僕は言う。なぜ僕の家の前に立っているのですか?

「ここは私の家だ」

明らかに男は腹を立てている。おかしなことを言うな、という無遠慮な目線が僕に突き刺さる。僕の思考はコノ男ハ何ヲイッテイル?という疑問でいっぱいになる。僕かその男のどちらか、もしくは双方の認識がおかしいのだろうと思う。だけれど僕にはそれを説明する方法も根拠をも持ち合わせてはいない。頭がぐらぐらする。

男の憮然とした表情を見ながら、僕は何も言わず会釈だけしてドアを閉める。ガチャン、というドアの閉まる大きな音がする。目を閉じる。大きく息を吐く。今ある現実を受け止めるしかないのだ、と自分に言い聞かせる。時々こういうことが突然にやってくる。きっといつか収まるべき場所にうまく収まる時が来るのだ。今までのように。

タリーズコーヒーで買った福袋に入っていた、コーヒーキャンディの缶を開けた。中からひとつぶ取り出し乱暴に口に入れてガリガリと噛み砕いた。

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