手に持った紙コップの底からぴんと張られた白い糸の向こうには見知らぬ誰かがいて
コップを耳に当てると糸の向こう側の生活の音が聞こえる
料理をしている音
鳥の鳴き声
車の走る音
小さな女の子の声
あの日偶然つながった糸電話は
会話ができるほど鮮明な音は聞こえないけれど
確かに誰かとつながっていて
タイミングが合うとごくまれに意思の疎通を図ることができる
言葉というにはあまりに未熟なそれは
不安や希望や喜びが
糸に伝わった振動から読みとることができる
顔も見知らぬ糸の先の人よ
独特の感性を持つあなたは少しずつ私に近づいてきているようです
もしかしたらすれ違っているかもしれない
あなたはあなたの新しい世界を
私は私の新しい世界を
お互いにつながったあのころとは違う場所で
それぞれに生きていて
時々思い出すだけの関係だけれど
昼でも夜でも
糸の先にはあなたがいて
あなたの周りの音をかすかに感じることができる
それは私が世界に一人ではない証拠
心細い夜も憂鬱な月曜の朝も
糸の向こうにいつもあなたはいてくれた
それはお互いの秘密
これからずっと
もうしばらくだけでも

