きなこぱんがおいしい、と有名なパン屋の話を友人に聞いた。
外はサクサク、中はふんわりもちもちしていて、黄金色のきなこが品よくまぶしてあるらしい。
これが絶品にうまい、ということなのだ。
ぼくはその話を聞いてから、きなこぱんのことを1日も忘れることはなかった。
何度も食べに行きたいと思ったが、そのパン屋はぼくの家からとても遠い場所にあるのだ。
おいそれと行ける場所ではなかった。
ぼくは毎晩、日記帳にきなこぱんについて巡らせた思いや想像をぶちまけていた。
誰にも知られず、誰にも見られないようにして、ぼくはひとりできなこぱんとの空想に耽っていた。
もう何も手につかない!
ぼくはある日の土曜日の朝、急に思い立ってきなこぱんを買いに行くことにした。
一張羅のタキシードに着替えて、シルクハットを身に着けた。
家から空港まで自家用車をブッ飛ばして、空港のチケットカウンターに行き、
とにかく今から乗れる一番早い飛行機を、と受付の女性に懇願した。
受付の女性はぼくの必至の懇願に狼狽していたが、プロ意識の高い笑顔はぎりぎり保ったまま、
効率的に、確実な方法でぼくが希望している飛行機を案内してくれる。
ぼくは小学生のことものように一言も発さずに、一言も聞き逃さないように案内を聞いた。
そうしてぼくは空港から飛行機に乗って、一路南へ、きなこぱんを買いに出かけたのだった。
(つづく・・・かもしれない)
