近くて遠い人

本当はポートレートが好きで人を撮りたいと思うのだけれど、モデルになってくれそうな人がたくさんはいない。大抵はいつも撮影させてくれる同じ人を撮る。あまり露骨に顔を撮るようなことはしない。手や後ろ姿など個人が特定できないように撮影している。悪用する気はないが相手への配慮のつもりだ。

本当は知人に撮りたい人がいる。相手は女性で特に親しい人ではない。日常生活で時々目の入るような距離にいる人で、きちんと話した記憶はない。必要最低限の会話をいくつかしたような気がする、程度のものだ。周りの人の評判を聞くとおとなしく地味で目立たないが、丁寧で几帳面な人ということだった。

僕はその人の所作に惹かれた。体のこなしがきれいな人だと思った。コピー機を操作している時はコピー機が行儀のよいフクロウをなでているように見えたし、街で偶然見かけたときには16世紀のコルセットとパニエをつけて歩く貴婦人を想像させるような歩き方をしていた。ほかの人と何かが違うように感じるのだ。

彼女を撮影する機会は永遠に訪れることはないだろう。素人カメラマンに所作や佇まいの美しさまで映し出す技術を持ち合わせているとは思えない。だけどもし、万が一、撮影の機会に恵まれることがあれば、技術の有無に関わらず自分からみた彼女の優美な姿が撮れるんじゃないかと思う。撮れるような気がするのだ。

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