その時計はぼくにとってとても高価な代物だった。
粗末な腕時計をしていたことを見るに見かねて、その老人は僕にプレゼントしてくれたのだった。
「時計は国産で、正確に時を刻む者を選べ」
と、その老人は口癖のように繰り返していた。
その時ぼくのしていた時計はおもちゃみたいなものだった。
だけどそれはそれで、ぼくにとって大切なモノだった。
老人の話にぼくは適当に相槌を打っていた。
老人がぼくに時計をくれたのはそんな時だった。
誰かからもらったプレゼントの包装を開けて、必要ないから他人に譲る、というような渡され方だった。
カウンターの隣にいた老人がそれを懐から出してぼくの前に出した時、
ぼくはそれがなんだかわからずにきょとんとしていた。
箱を開けて中を見て新品の国産の腕時計だった。
腕時計に詳しくないぼくにも、それが高価なものだったことはすぐに分かった。
もらえない。とぼくはプレゼントを老人に返そうとした。
老人はそのことに触れず、別の話をしていた。
仕方がないのでぼくは老人の話をしばらく聞いていた。
その日からぼくの腕には老人からもらった腕時計が付いている。
派手ではないけれど、堅実に正確な時刻を刻む時計。
機械式に比べて、味気ないという人もいるけれど、
ぼくは老人からもらったこの時計を気に入っている。
