200万匹の猫

黒いマントを羽織ってステッキを持った初老の男と、

顔中におしろいを塗ったピエロのような女が、

町中から200万匹の猫を噴水のある広場に集めていた。

 

彼らは町中の猫にサーカスをさせようともくろんでいたのだ。

集めた猫たちに芸を仕込むのだ。

男の眼は怪しく光っているのだった。

 

彼らには猫を集める特殊な秘策があった。

家で生成した特殊なまたたびの粉をこの広場に撒くという方法だった。

 

このまたたびの粉は無害であるが、

中毒性があり、猫たちにはたまらなく良い香りがするらしい。

右手に大きくその粉をすくって、空に撒くと

必ず1匹の猫がどこからかやってくる。

 

200万匹の猫を集めるために、初老の男と、おしろいの女は、

手分けをして100万回ずつ空に粉を撒いた。

ふたりともそのせいで両腕が棒のように重くなっていた。

 

また200万回分のまたたびの粉はとてつもない量だった。

まる2日がかりで段ボール箱を2万箱も運んだのだ。

 

段ボールを運ぶとき、彼らは特別な格好をしていなかった。

黒いマントを羽織っていない男はただのおじさんで、

おしろいを塗っていない女もただのおばさんだった。

 

ただのおじさんとただのおばさんが一生懸命段ボールを広場に運んでいるのは不思議な光景だった。

猫たちにもその姿は目撃されていた。

 

ようやく集まった200万匹の猫たちはまたたびの粉の影響を受け泥酔していた。

あるものはまたたびの匂いにさまよい、

あるものは毛づくろいをし、

あるものはお互いにじゃれ合い、

あるものは幻覚を威嚇し、

あるものは噴水に落ち、

あるものは陽気に踊り、

あるものは大声で鳴き、

あるものは走り回り、

あるものは寝てしまっていた。

それはまさしくカオスと呼ぶにふさわしい状態だった。

 

 

黒いマントを羽織ってステッキを持った初老の男と、

顔中におしろいを塗ったピエロのような女が、

町中から200万匹の猫を噴水のある広場に集めてすべてを諦めて途方に暮れていた。

猫に芸をさせるなんて無理だったのだ。

彼らの両腕はずっと棒のように重いままだった。

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